俳句は風土への心からなる挨拶

俳誌 【にれ】 主宰木村 敏男 の プロフィール

大正12年 北海道生まれ

北海道俳句協会会長 

  北海道文学館理事

北海道新聞 「日曜文芸」俳句 選者

「にれ」創刊主宰  

「杉」 「広軌」創刊同人




著書  『北海道俳句史』『北の歳時記』『序文集 雪の栞』
『花神現代俳句・木村敏男』



句集  『日高』 『遠望』 『雄心』 

『雁書』  『眼中』  『散華』




受賞  北海道俳句協会賞(第1回)
 
    北海道新聞文学賞

鮫島賞

北海道文化奨励賞など


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第一句集 日高 木村 敏男 

   昭和25年〜昭和42年

              昭和43年扉の会より発行

句集 「日高」 により第2回北海道新聞文学賞を受賞



うすいろのうすいろの湖虹を得し


山脈は幾重にも胸夕焼けたり


光るもの萌ゆるものみな五月の餉


ある限りの鶏頭炎やし四十妻


雪降る木寂しきときは枝ひろぐ


霜の屋根日の出を領す少年期


暗くながき海の終末クリスマス


風唱の浜ぎっしりと実はまなす


妻が編み子が読み雪夜はじまるか


海のような日暮を走り母の日は


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第二句集『遠望』木村 敏男 

昭和43年〜昭和51年

              昭和52年永田書房より
                 
             


笹山の年越すみどり天塩川


孵卵器のやうに雪夜はまたたく灯


冬鴎生を負はざる稿すこし


子を成して鶏頭に息ふかくする


生き死にの鴉ぎっしり冬待つ川


子が妻が覗く図上の露の家


氷挽く男に寒の芯あつまる


晩夏光石を砕けば石の花


黄昏は雲のはやさの晩稲刈


大学の雪解はじまる風響樹


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第三句集 『雄心』木村 敏男

       昭和51年〜昭和58年

               昭和59年 にれ発行所

句集「雄心」により第5回鮫島賞(北海道俳句協会)を受賞
                               


枯れきって今年の雲も見尽しぬ

波郷忌の海があふれてゐたりけり

深秋の雄心ひとり遠嶺越ゆ

人を焼く火のがうがうと斑雪山

地下鉄の最後尾にて年惜しむ

大寒の亡父が骨を鳴らすなり

立ち向ふことの幾つか秋風裡

念力のゆるむとき来て地吹雪す

そよぐもの無くて雪待つ原始林

寒波くる森いくたびも羽搏いて
源流の一滴ゆるむ雪解川

黄落の水揉みあって鮭とほす

日高線尽きて海より深き枯れ

流氷の近づく夜のけものみち

昨日より今日明るしと雪を掻く

水ゑくぼ河口にあふれ春遠嶺

札幌のすみずみ揺れて秋さくら

雪解けの頬痩せてくる山の貌

首上げて岬は冬の雄声なす

野仏を一つ抱きしめ山眠る

新鋭の山みな立って秋の風

眉張って冬嶺は父の匂ひする

秋くると遠嶺羽搏くことやめず

読みかけの歎異抄にも初日さす

多喜二忌の全灯点る魚市場

寒風の叱咤は父の声ならむ

栗の実や一つ拾へば一つ老ゆ

水底のごとき日暮を山桜

風見鶏沖指して夏来りけり

えぞにうの拳ほどけて海の風

サルビアの炎かき立て昼の雨

硝子吹く誰も無口に工場夏

すずかけの幹の剥落神無月

玻璃ふうりん夜は星空へ還るべし

歳時記の波郷は若し雪催

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第四句集 『雁書』 木村 敏男

       昭和59年〜昭和63年まで  

        平成元年 富士見書房発行




存問の死生吹かるる大冬木

還暦の見上げて秋の雲ばかり

白秋のからまつ楸邨のからまつ晩秋

唐辛子火となる刻を白鳥来

丹頂の翔つとき天地息合はす

火の山に残る雄力緑立つ

屯田の裔の一村麦こがし

眼中のいっさい消えて夏落葉

馬黍刈られ新月匂ひだす

起重機の仰角ねむる十三夜

波郷忌の散るものもなき空澄めり

川はいま夜通しさわぐ雪解かな
漆黒の馬繋がれて四月の木

捨畑の一戸かたむく花李

岬まで夕日敷きつめ昆布干す

アカシヤの花屑すくふ塵芥車

行きすぎて金木犀は風の花

霜柱踏めば故郷くづれけり

光るもの掴み日高の春の鷹

雪がくるまでの紺碧ななかまど

廃船の胸板うって春疾風

李咲き海の紺青張りとほす

六十に少し飽きたる蕗の雨

若葉雨万の雫が碑を覚ます

百合一つ散って机上に夜明けをり

立ち止まるとき寒星の無尽蔵

風見鶏北指して年終りけり

明易し白樺はみな夜明けの木

まばたきをする間も老いて未草

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 第五句集 『眼中』 木村 敏男 

         平成元年〜平成五年まで 
                 
                  平成六年 角川書店発行


胸反らす麒麟の玩具夏終る

日蔭より日向さみしき秋の蝶

根雪来るまでの明るさ樺黄葉

初日待つ岬誰からも遠し

眼中の一人去りたる雪の果

鎖樋鎖をつなぐリラの雨

大方は見えし晩年草もみぢ

仏心も仏語も知らず穴惑ひ

碧眼の湖まだ枯れず山枯るる

音一つ加へて冬湖ただならず

故郷へ架けて渡らず氷橋

滝となる一縷の水も怠らず

海ひと匙ひと匙すくひ青メロン

銃眼に吹かるる鴨も身づくろふ

あたたかき落葉重ねて雪待てり
山中の水まだ涸れず冬紅葉

山国の空抜けきつて根雪待つ

牡蠣すするとき晩年の貌となり

少しづつ見えて初日といふ炎

丹頂の翔つとき虚空ひるがへる

こんにゃくを掴みて祭来りけり

元日の鴨も鴎も射程距離

泣きつかれたる白鳥より睡り落つ

晩年の雫ふり切り秋日照雨

仏頭のごとき枯山柏鳴る

身ほとりの光はなさず雪雫

死者生者わかつ夜の雪しきりなる

眼前も眼中も昏れ冬怒濤
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第六 句集 散華 木村 敏男 

           平成6年〜平成10年までの320句より
                             平成11年 ふらんす堂 発行


実南天  平成6年

死ぬまでの一日一志冬青空

一塵もまじへず遠嶺深雪晴

かなしみは湖より来たり冬花火

眠る間も齢過ぎゆく山ざくら

青空のカーテンコール桜山

白樺は同齢ばかり明易し



神の掌 平成7年

白鳥も丹頂も来よ獏枕

束の間の青空のぞく雪地獄

地球儀の海こぼさずに桃咲けり

つくづくしおもへば何もかも遠し

弘法麦熟るる遠さに海の風

晩年の道へ出てゆく蝸牛

波郷なき世に息継いで蛍草

次の世にまだ間がありて蛍待つ

石あれば石につまづき源二の忌
   平成8年
  
この空の水尾に乗りたる花筏

殺生の今日のはじまり毛虫踏む

炎天の貌を小さく戻りけり

鳩を見て噴水を見て敬老日

いつか逢う死といふ大事初紅葉

秋夜読む波郷楸邨青春譜



繚乱 平成9年

女より男さみしき彼岸寺

人の死はいつも唐突ぼたん雪

雪腐る津軽思へば海騒ぎ

逢うよりは別れの齢梅ひらく

源流へ追ひつめてゆく蝉時雨

さあ赤くなるぞと風のななかまど

走り根は山の動脈冬もみぢ



硯海  平成10年

吾のみに応ふ山彦初山河

海底の光ケーブル海明けぬ

本腰を入れて凍滝解けはじむ

ひらがなのやうな蝌蚪湧き父の村

青胡桃夜の奈落に一人ゐて

人送るたびにアカシヤ花こぼす

戒名を考へてをり風知草

故郷の僧が来てをり木槿咲く

野生の血一つまぎれず蛇苺

遺言も遺句も一行帰り花

硯海へこぼす一滴十二月

まばたいて極月の星無尽蔵

冠雪の山ぎっしりと仏路
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